中小企業の賃上げ原資を生む人材育成と粗利改善の優先順位実践入門

最低賃金の上昇や採用競争に合わせて賃上げしたい一方で、今の利益率では原資が足りるか不安になる場面は多いはずです。売上を追うだけで、本当に賃上げを続けられるのか迷っていませんか。
この記事でわかることは次のとおりです。
- 賃上げ額から必要な粗利改善を逆算する考え方
- 価格、稼働率、固定費の順に原資づくりを進める優先順位
- 投資判断と賃上げ後の月次指標を、粗利への寄与で見る方法
1. 賃上げ原資は売上ではなく粗利から見る

「売上をどれだけ増やせば賃上げできるのか」と考えると、話が大きく見えがちです。まず見るべきは、売上ではなく粗利です。粗利とは、売上から仕入れや外注費などを引いた、会社に残るお金です。
最低賃金は全国加重平均で1,121円となり、昨年度から66円、6.3%引き上げと公表されています(出典: mhlw.go.jp)。これは、賃上げが一部企業だけの課題ではなく、地域の中小企業にも毎年の経営テーマになっていることを意味します。中小企業白書でも、中小企業は大企業より賃上げ余力が厳しく、原資確保が課題とされています(出典: meti.go.jp)。だからこそ「売上が増えたら上げる」ではなく、先に必要額を置く考え方が現実的です。
1.1. 必要な粗利改善額を逆算する
考える順番は、次のようにシンプルです。
見る順番 | 確認すること | 意味 |
|---|---|---|
1 | いくら賃上げするか | 必要な人件費を決める |
2 | 対象者は誰か | 年間の増加額を出す |
3 | 粗利でいくら必要か | 売上目標に置き換える |
たとえば、月の賃上げ額を決めたら、対象者数と対象期間を掛けます。そこに社会保険料など会社負担分も考えると、実際に必要な粗利が見えてきます。家計でいえば「給料が増えたら貯金する」ではなく、「先に貯める額を決めて、毎月の使い方を変える」感覚に近いです。
2026年6月短観では、中小企業の経常利益計画が製造業で前年度比マイナス11.1%、非製造業でマイナス8.8%でした(出典: boj.or.jp)。利益が減る見通しの中で賃上げするには、売上高だけを追うより、粗利が月次で増えているかを見る必要があります。賃上げ額を先に決め、必要な粗利改善額を逆算することが、最初の一歩です。
2. 最初に効くのは価格、次に稼働率、最後に固定費

「賃上げしたいが、何から手を付けるべきか」。現場では、経費削減から考え始める会社も少なくありません。ただ、順番を間違えると、社員の負担だけが増え、原資は思ったほど増えません。
最低賃金の全国加重平均は1,121円で、昨年度から6.3%引き上げられました(出典: mhlw.go.jp)。中小企業にとっては、人件費の上昇を一時的な出来事ではなく、毎年の経営課題として見る必要があると考えられます。さらに短観では、中小企業の2026年度経常利益計画が製造業で前年度比マイナス11.1%、非製造業でマイナス8.8%でした(出典: boj.or.jp)。利益が細る見通しの中では、効きやすい順に手を打つことが現実的でしょう。
優先順位 | 見るポイント | 具体例 |
|---|---|---|
1. 価格 | 値決めが原価に合うか | 送料・材料費込みで再計算する |
2. 稼働率 | 人や設備の空き時間 | 手待ち時間、移動時間を減らす |
3. 固定費 | 毎月出る費用 | 家賃、通信費、契約料を見直す |
まず見るべきは価格です。たとえば、材料費や外注費が上がっているのに、昔の見積書をそのまま使っていれば、売るほど利益が薄くなります。次に稼働率です。人を増やす前に、段取り待ちや二重入力を減らせないかを確認します。最後が固定費です。固定費の削減は大切ですが、必要な道具や教育まで削ると、かえって生産性が落ちます。賃上げ原資づくりでは、「安くする」より先に「正しく稼ぐ」順番で考えることが重要です。
3. 人を増やさず売上を伸ばす投資判断

「機械を入れるべきか、システムを入れるべきか」。賃上げを考えるほど、投資の迷いは増えます。ここで大切なのは、投資額の大小ではなく「何時間減るか」「粗利がどれだけ増えるか」で比べることです。
中小企業白書では、中小企業は大企業より賃上げ余力が厳しく、賃上げ原資の確保が課題とされています(出典: meti.go.jp)。つまり、気合いで売上を追うだけではなく、同じ人数で回せる仕事量を増やす視点が必要と考えられます。たとえば、毎日手で転記している作業を減らせれば、その時間を見積対応や既存客への提案に回せます。
投資判断は、次のように整理すると比べやすくなります。
選択肢 | 見るポイント | 注意点 |
|---|---|---|
省力化設備 | 作業時間と不良の減少 | 使う人の教育が必要 |
業務システム | 転記・確認作業の削減 | 業務手順の整理が先 |
外注・共同化 | 社内時間の確保 | 丸投げにしない |
支援の現場では、補助金ありきで設備やツールを選び、導入後の担当者や効果測定が後回しになる例があります。AIやDXも同じです。大きな刷新より、請求書作成、日報入力、在庫確認など、定型業務を棚卸しする方が進めやすい傾向があります。投資は「買うこと」ではなく、浮いた時間を粗利につながる仕事へ移すことまで含めて判断するのが現実的でしょう。
4. 月次で見るべき賃上げ後の経営指標
月末に試算表を見て「賃上げ後も利益は残っているのか」と不安になることがあります。売上が増えていても、人件費の増え方が粗利を上回ると、手元に残る力は弱まります。
最低賃金は全国加重平均で1,121円となり、昨年度の1,055円から6.3%引き上げられる見通しです(出典: mhlw.go.jp)。これは、賃上げを一度の判断で終わらせず、毎月の数字で見直す必要が高まっている、ということです。中小企業は賃上げ余力が大企業より厳しく、原資の確保が課題とされています(出典: meti.go.jp)。だからこそ、見るべき数字を絞ることが現実的です。
指標 | 見方 | 崩れのサイン |
|---|---|---|
労働分配率 | 人件費÷粗利 | 粗利より人件費が速く増える |
一人当たり粗利 | 粗利÷人数 | 人を増やしても粗利が伸びない |
時間当たり粗利 | 粗利÷総労働時間 | 残業しても粗利が増えない |
労働分配率は、粗利という「会社に残るもうけ」を、どれだけ人件費に回しているかを見る数字です。家計でいえば、収入に対する食費や家賃の割合を見る感覚に近いです。
一人当たり粗利と時間当たり粗利は、賃上げ後の生産性を見る物差しです。中小企業の2026年度経常利益計画は、製造業で前年度比マイナス11.1%、非製造業でマイナス8.8%とされています(出典: boj.or.jp)。利益が下がる前提であれば、月次で「人」「時間」「粗利」を並べて見ることが、早めの打ち手につながると考えられます。
5. 賃上げを続けるには「決め方」を社内に残す
賃上げ原資づくりで避けたいのは、経営者の感覚だけで価格、投資、人員を決めてしまうことです。まずは月次で粗利、人件費、労働時間を同じ表に並べ、どの商品・業務が原資を生んでいるかを見える化するのが堅実です。そのうえで、値上げ交渉、定型業務の削減、教育投資の順に実行担当と期限を決めます。補助金やツールは有効な手段ですが、運用する人と効果測定が曖昧なままでは、賃上げの支えにはなりにくいです。採用を急ぐ前に、既存社員がより粗利の高い仕事に時間を使える状態をつくることが、継続的な賃上げへの近道と考えられます。
6. 賃上げ原資づくりは数字の整理から始めましょう
賃上げを続けるには、売上だけでなく粗利を起点に、価格、稼働率、固定費、投資効果を順番に見ていくことが大切です。とはいえ、自社の数字に当てはめると、どこから手を付けるべきか迷うこともあるはずです。自社の場合はどう整理すべきか分からない方は、60分の無料相談で現状を一緒に整理してみませんか。
EDITORIAL TRUST
この記事の編集・監修体制
編集
経営の羅針盤 編集部
中小企業の経営判断、補助金、DX、人材領域を中心に、公式情報と実務観点をもとに記事を編集しています。
運営会社
株式会社戦略デザインラボ
人的資本経営支援事業、経営コンサルティング事業、人材支援事業(採用・育成・定着)、バックオフィス支援事業(総務・業務効率化)を通じて、中小企業の意思決定を支援しています。


