最低賃金上昇に備える中小企業の人材育成と賃上げ原資づくり実務

最低賃金の改定で、パート・アルバイトの時給を上げる必要がある一方、売上は思うように伸びない。小売・飲食・サービス業では、人を減らせば現場が回らず、値上げにも不安が残ります。どこから手を付けるべきか迷っていませんか。
この記事でわかること
- 最低賃金の目安をもとに、自社の人件費増を利益計画へ反映する考え方
- 価格改定、生産性改善、人員配置の見直しで人件費増を吸収する方法
- 商品・サービス別の値上げ判断と、補助金・税制を原資づくりに使う位置づけ
1. 最低賃金改定を利益計画に落とし込む

給与計算ソフトの設定変更を前に、「結局、来期はいくら人件費が増えるのか」が見えない。そんな時は、最低賃金対応を月次の利益計画に置き直すと、判断しやすくなります。
2026年7月28日に公表された令和8年度の目安は、Aランク54円、Bランク56円、Cランク56円です。Aランクは埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪の6都府県です(出典: mhlw.go.jp)。目安どおりなら全国加重平均は1,176円、上昇額は55円、引上げ率は4.9%です(出典: mhlw.go.jp)。時給だけ見ると小さく感じても、人数と労働時間を掛けると、毎月の固定費として効いてきます。
試算は、次の順で進めると整理できます。
見る項目 | 確認すること | 計算の考え方 |
|---|---|---|
時給差額 | 今の時給との差 | 上がる単価を出す |
対象人数 | 最低賃金付近の人 | 影響人数を数える |
月間労働時間 | ひと月の勤務時間 | 差額に掛ける |
たとえば、材料費の値上がりを商品ごとに見るように、人件費も「誰に、いくら、何時間分」が増えるかに分けます。月間増加額は「時給差額×対象人数×月間労働時間」で見ます。年額は、その月額を通年の計画に反映します。ここまで出すと、売上で吸収するのか、粗利を見直すのか、業務時間を減らすのかを話し合いやすくなります。
2. 人件費増を吸収する3つの選択肢

「人件費が上がるなら、人を減らすしかないのか」。そう考える前に、利益を守る手段を並べて見ることが大切です。令和8年度の最低賃金目安どおりなら、全国加重平均は1,176円、上昇額は55円、引上げ率は4.9%です(出典: mhlw.go.jp)。これは、毎月の固定費がじわりと増えることを意味します。中小企業では、削るより先に「どこで吸収するか」を決める方が現実的でしょう。
選択肢 | 見るポイント | 注意点 |
|---|---|---|
価格改定 | 粗利を守れるか | 一律値上げにしない |
省力化 | 手作業を減らせるか | 運用担当を決める |
営業時間・シフト見直し | 忙しい時間に人を寄せる | サービス低下に注意 |
価格改定は、もっとも直接的に原資を作る方法です。ただし、すべての商品を同じように上げると、買われにくくなるものも出ます。まずは粗利が薄い商品、説明すれば納得されやすい商品を分けて考えるのがよいでしょう。
省力化は、機械やITを入れる前に「同じ入力を何度もしていないか」「紙で回している確認はないか」を見ることから始めます。大きなシステム刷新より、定型業務の棚卸しから進めた方が動きやすい傾向があります。
営業時間やシフトの見直しは、売上の少ない時間を短くし、忙しい時間に人を厚くする考え方です。店なら来客の多い時間に人を集める、事務なら締め日前後に作業を寄せる、といった調整です。人件費削減ではなく、働く時間を利益に結びつける見直しとして扱うことが重要です。
3. 値上げできる商品とできない商品を分ける

「全部の商品を同じ率で上げてよいのか」。価格表を見ながら迷う場面は多いはずです。まずは一律値上げではなく、商品・サービスごとに採算を分けて見ます。
令和8年度の最低賃金改定の目安どおりなら、全国加重平均は1,176円、上昇額は55円、引上げ率は4.9%です(出典: mhlw.go.jp)。これは、人件費増を一時的な我慢で吸収しにくい水準と考えられます。だからこそ、売れている商品でも「残る利益」を確認することが現実的でしょう。
見る項目 | 確認すること | 方針の考え方 |
|---|---|---|
粗利率 | 売上から原価を引く | 低ければ値上げ候補 |
競合価格 | 近い商品との差 | 高すぎるなら慎重に |
継続率 | 繰り返し買われるか | 常連向けは説明重視 |
たとえば同じ飲食店でも、手間が多く粗利が薄い定番品と、追加注文されやすい品では判断が変わります。前者は価格改定や内容の見直しを検討し、後者は急な値上げより満足度を保つ工夫が向きます。大切なのは「売上が大きい商品」ではなく、「人件費を払った後に利益が残る商品」を見極めることです。
4. 補助金・税制は原資づくりの補助手段
「補助金が使えるなら、先に機械を入れようか」。賃上げ局面では、こうした話が出やすくなります。ただ、制度は原資そのものではありません。あくまで、利益改善を進めるための補助輪として考えるのが安全です。
令和8年度の最低賃金目安どおりに引き上げられた場合、全国加重平均は1,176円、上昇額は55円、引上げ率は4.9%です(出典: mhlw.go.jp)。これは、人件費増が一時的な負担ではなく、毎月続く固定的な負担になることを意味します。補助金で初期費用を抑えても、運用費や担当者の時間まで見ないと、かえって負担が増える可能性があります。
制度を選ぶ前に、次の順で整理すると実務に落とし込みやすくなります。
観点 | 先に決めること | 注意点 |
|---|---|---|
賃上げ支援 | 何円上げるか | 継続できる粗利か |
省力化投資 | 減らす作業 | 担当者を決める |
生産性向上 | 測る指標 | 導入後に確認する |
中小企業庁の賃上げ・最低賃金対応支援サイトは、2026年4月24日に更新されています(出典: chusho.meti.go.jp)。制度内容は変わるため、申請前に公式情報を確認することが欠かせません。大切なのは「使える制度は何か」ではなく、「賃上げを続けるために、どの費用と作業を減らすか」です。ツール導入も、まず定型業務の棚卸しから始める方が現実的でしょう。
5. 賃上げ対応は「払える形」を先に作る
最低賃金への対応で最初に避けたいのは、値上げ、採用、補助金、DXをばらばらに進めることです。現実的なのは、まず月次で粗利と資金繰りを確認し、賃上げ後も残すべき利益を決めることです。そのうえで、利益を圧迫している商品、時間帯、作業を順に見直します。人手不足だからと新規採用だけに寄せると、既存社員の育成や定着が後回しになり、負担感が残りやすくなります。ツールや制度は、減らしたい作業と担当者、効果を見る指標が決まってから選ぶ方が堅実です。経営者の頭の中だけで判断せず、優先順位を数字と言葉で共有することが、継続できる賃上げの土台になります。
6. 賃上げ原資は小さく分けて見える化する
最低賃金上昇への対応は、人件費増を月次の利益計画に落とし込み、価格改定・省力化・シフト見直しを組み合わせて原資を作ることが大切です。商品別の採算や補助金・税制の使いどころも、数字で並べると判断しやすくなります。とはいえ、現場を止めずに整理し、社内で合意できる優先順位を決めるのは簡単ではありません。自社の場合はどう考えるべきか迷う方は、60分の無料相談で状況を伺いながら、一緒に整理しませんか。
EDITORIAL TRUST
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経営の羅針盤 編集部
中小企業の経営判断、補助金、DX、人材領域を中心に、公式情報と実務観点をもとに記事を編集しています。
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株式会社戦略デザインラボ
人的資本経営支援事業、経営コンサルティング事業、人材支援事業(採用・育成・定着)、バックオフィス支援事業(総務・業務効率化)を通じて、中小企業の意思決定を支援しています。


