中小企業のDX人材育成は採用前に役割分けと標準活用で進める実践法

DXを進めたいと思っても、専門人材の採用は簡単ではありません。いまいる社員に学んでもらうにも、誰に何を教えればよいのかで迷っていませんか。全員を同じ内容で育てようとすると、現場の負担だけが増えがちです。
この記事でわかること
- 既存社員を役割ごとに分け、全員教育と推進人材育成を切り分ける考え方
- デジタルスキル標準を、営業・製造・管理部門などの育成表に落とす方法
- 小さな業務改善から始め、外部研修や助成金も使って育成を進める流れ
1. DX人材を採る前に、育てる人材を分ける

「DX人材を採りたいが、求人を出しても来ない」。そんな悩みの前に、まず社内で誰をどこまで育てるかを分けることが大切です。全員を専門家にしようとすると、研修も現場も疲れてしまいます。
IPAのデジタルスキル標準は、全社員向けの「DXリテラシー標準」と、推進役向けの「DX推進スキル標準」を含みます(出典: ipa.go.jp)。これは、中小企業でも「全員に必要な力」と「一部の人が深める力」を分けてよい、という整理に使えます。
層 | 育てる人 | 役割 |
|---|---|---|
全社員 | 事務、営業、製造など | デジタルに慣れる |
推進人材 | 現場をよく知る担当者 | 業務改善を進める |
外部専門家 | 社外の専門人材 | 高度な設計を担う |
全社員には、難しいシステム知識よりも「紙の作業をどう減らすか」「同じ入力を何度しているか」に気づく力が必要です。これは、工具の名前を全員が少し知っている状態に近いです。使いどころが分かれば、改善の会話に参加できます。
一方で、推進人材は現場と経営の橋渡し役です。DX推進スキル標準は、DXを進める人材の役割や身につける力を定義しています(出典: ipa.go.jp)。中小企業では、専任者を置くより、現場を知る人に小さな改善を任せる形が現実的でしょう。
ただし、システム全体の設計や高度なセキュリティまで内製化する必要はありません。経理担当に電気工事まで任せないのと同じです。社内で持つ力と、外に任せる領域を分けることが、無理のないDX育成の出発点です。
2. デジタルスキル標準を育成表に落とす

「標準資料を読んだが、自社の研修にどう使えばよいか分からない」。ここで止まりやすい会社は少なくありません。大切なのは、標準をそのまま配るのではなく、職種ごとの育成表に直すことです。
IPAのデジタルスキル標準には、DXリテラシー標準とDX推進スキル標準があります。DXリテラシー標準は、働く人がDXを理解し、変化に合わせて行動するための標準です。DX推進スキル標準は、DXを進める人の役割や学ぶべきスキルを示しています(出典: ipa.go.jp)。中小企業では、全員に同じ深さを求めるより、仕事に合わせて必要分だけ選ぶ方が現実的でしょう。
たとえば、次のように「誰に、何を、どこまで」を分けます。
職種 | 育成項目の例 | 目指す状態 |
|---|---|---|
営業 | 顧客情報の整理 | 提案前に履歴を確認できる |
製造 | 作業記録の入力 | ムダや手戻りを見つけられる |
経理・総務 | 表計算や定型処理 | 月次作業を早く正確に進める |
推進役 | 課題整理と進行管理 | 現場の改善を前に進める |
標準は、学校の教科書のようなものです。全ページを覚えるより、自社の仕事に必要な単元を選ぶ方が使いやすくなります。育成表に落とす時は、「知っている」ではなく「業務で使える」を到達点に置くと、研修後の変化も見えやすくなります。
3. 最初のテーマは大規模DXではなく業務改善

「DXを始めたいが、何から手を付けるべきか分からない」。現場では、最初から大きなシステム刷新を考えて止まることがあります。まず見るべきは、毎日くり返す小さな手間です。
IPAのデジタルスキル標準には、全社員向けの「DXリテラシー標準」と、推進役向けの「DX推進スキル標準」があります(出典: ipa.go.jp)。これは、いきなり専門人材だけを育てるのではなく、現場が変化に気づき、動ける状態をつくる考え方だといえます。中小企業では、次のように「困りごとが見える業務」から始めるのが現実的です。
業務 | 見るポイント | 最初の改善例 |
|---|---|---|
紙・Excel業務 | 二重入力があるか | 入力先を一つにする |
受発注 | 確認待ちが多いか | 連絡手順をそろえる |
在庫 | 数が合わないか | 記録の時点を決める |
勤怠 | 集計に時間がかかるか | 締め作業を見直す |
顧客管理 | 情報が人に偏るか | 記録項目をそろえる |
たとえば、勤怠の集計に毎月時間がかかるなら、それは「大規模DX」ではなく、手順の整理とツール活用で改善できる可能性があります。大切なのは、便利な道具を先に選ぶことではありません。どの作業を減らし、誰が続けて確認するのかを先に決めることです。成果が見えやすい小さな改善は、社員が「自分たちでも変えられる」と感じる入口になります。
4. 助成金と外部研修を組み合わせる
「社内に教えられる人がいないから、DX育成は無理」。そう感じたときこそ、外部研修を選択肢に入れる場面です。すべてを社内で抱えず、基礎は外で学び、実務への落とし込みは社内で行う形が現実的でしょう。
IPAのデジタルスキル標準は、全社員向けの「DXリテラシー標準」と、推進役向けの「DX推進スキル標準」を含みます(出典: ipa.go.jp)。これは、受講者を「全員同じ研修」にしないための物差しになります。たとえば、経理担当は表計算やデータ確認、推進役は業務の見直し方まで学ぶ、という分け方です。
助成金も確認したい項目です。人への投資促進コースの高度デジタル人材訓練では、中小企業の経費助成率75%、賃金助成は1人1時間1,000円と案内されています(出典: mhlw.go.jp)。費用面の負担を下げる可能性がありますが、受講時間の確保や資金繰り、申請要件の確認は欠かせません。
確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
研修内容 | 育成表の不足スキルに合うか |
対象者 | 全社員向けか、推進役向けか |
受講後 | どの業務を変えるか |
助成金 | 要件と社内手続きに合うか |
第12次職業能力開発基本計画でも、DX関連を含む企業の人材育成支援を充実させる方針が示されています(出典: mhlw.go.jp)。制度は追い風ですが、目的ではありません。研修後に「どの手順を短くするか」「誰が試すか」まで決めておくと、学びが現場の改善につながりやすくなります。
5. 育成計画の前に、減らしたい手間を決める
DX人材育成で最初に決めるべきなのは、研修名やツール名ではなく「どの業務のムダを減らすか」です。目的が曖昧なまま学ばせると、受講後に現場で使われず、担当者の負担だけが増えます。まずは月次処理、入力作業、確認待ちなど、効果を確認しやすい業務を一つ選ぶのが堅実です。そのうえで、現場担当、推進役、外部に任せる範囲を分けます。助成金を使う場合も、費用を下げることより、受講後に変える手順と確認する指標を先に置くべきです。育成は採用の代替ではなく、経営改善を続ける体制づくりとして考えると進めやすくなります。
6. 自社に合う育成の進め方を整理するために
DX人材育成は、採用ありきではなく、既存社員の役割を分け、減らしたい業務の手間から学ぶ内容を決めることが大切です。小さな改善、外部研修、助成金を組み合わせれば、現場の負担を抑えながら進めやすくなります。とはいえ、誰を推進役にするか、どの業務から始めるかは社内だけでは判断しにくいものです。自社の場合はどう整理すべきか迷う方は、60分の無料相談で現状と優先順位を一緒に整理してみませんか。
EDITORIAL TRUST
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経営の羅針盤 編集部
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